Elbow at London O2 Arena ■ 7/March/2018

マンチェスター郊外Oldham出身のオルタナディブ・ロック・バンド、Elbow(エルボー)。日本では悲しくなるほど無名な彼らですが、イギリスではアリーナ・ツアーをやってしまうほどの超人気バンドなのです。

2006年にロンドンの2千人程度の会場で彼らのライブを観た当時(その話はこちらで→)、「アルバムの評価は常に高いのに、とにかく売れない」と言われていたのに、その直後にリリースされた4thアルバム「The Seldom Seen Kids」がイギリスの音楽賞「マーキュリー・プライズ」を受賞して、あれよあれよという間にアリーナ・バンドになってしまった彼ら。

それでもなかなか彼らのライブを再度観るチャンスがなく(まして来日なんてする訳もなく)、それでも去年8月の渡英の時、ポーツマスのフェスティバルで大トリをつとめる彼らのライブを遂に観られました!(その話はこちらで→)だから、次に彼らのライブを観るのは、また10年後かな?なんて思っていたのに、まさか半年後に彼らの単独ライブを観る羽目になるとはね(苦笑)いやいや、嬉しいですけどね!

今回は英国俳優ベン・ウィショーの舞台を観るための渡英で、それがたまたまElbowのベスト盤発売のアリーナ・ツアーの日程に当たりました。なので、ライブ当日はタワー・ブリッジのたもとにある新劇場ブリッジ・シアターで昼間に舞台を観て(その舞台の話に興味がある方はこちらで→)そして、その間に思う存分レコード店巡りをしてきたダンナと待ち合わせ、Elbowのライブ会場O2 アリーナへ。


これぞElbowファンへの「オ・モ・テ・ナ・シ」

地下鉄ノース・グリニッジ駅に到着すると、改札に「For Elbow Fans」と書かれた地下鉄のお知らせボードが置かれていました。普段なら、どの線が遅滞しているとか、いつに工事があるとか書かれているので、「ライブ後の終電時間のお知らせかな?」と思いきや、よくよく見てみると、そこに書かれていたのは、数々のElbowの曲のタイトルを織り込んだ散文詩!うわぁ、Elbowファンには最高のサプライズだ!到着するファンたちが次々と笑顔で写真に収めていました。これこそ最高の「オ・モ・テ・ナ・シ」だよね。

これまで外から見るだけだったO2アリーナ(だって、私が聴くようなバンドはここでライブが出来るほどメジャーではないから・・・)中に入ると、映画館やレストラン街が並んで、ちょっとしたショッピング・モールのような規模でビックリ。しかしっ!今回のElbowのツアー・サポートはアメリカのシンガーソングライター、ジョン・グラント(John Grant)なんですから、のんびりレストランに並んでいて、彼のライブを見そびれてはマヌケ過ぎる!

昨年のマンチェスター・アリーナでの自爆事件の後、O2アリーナでは強化されたセキュリティ・チェックのためにライブの時間になっても入場が終わらずに大騒ぎになった事があり、またチケット購入時のメールにも余裕を持って会場に来るようにと書かれていました。(余談ですが、ボーカルのガイ・ガーヴェイの腕にあるManchester Worker Beeの刺青は、この事件の後に入れたのだそうです。)

なので、夕食は駅のサブウェイのサンドイッチでさっさと済ませ、開場前からゲートで待機(笑)しかし、いざ開場してみると、確かに空港のセキュリティ並みのチェックでしたけど、意外とすんなり入場できて、ちょっと拍子抜け。

今回は2階の椅子席。ダンナが「Elbowをスタンディングで観るのは嫌だなぁ」(立って観るような音楽じゃないでしょ?という意味)と言い、私も舞台とライブの掛け持ちはさすがに疲れそうなので、素直に椅子席にしました。座って観ても、さすがにElbowなら寝ないでしょ(笑)

最大で2万人を収容出来るO2アリーナの半分が埋まった頃、ジョン・グラントがステージに登場。アメリカのオルタネイティブ・ピアノ弾き語りシンガーソングライター(どう表現すればいいのやら(苦笑))の彼は、本来はインディーズ音楽なので、おそらく彼にとってもアリーナ・ツアーなんて滅多にない事のはず。初めてのO2アリーナなのか、変な方向のシャワー・ヘッドのせいで楽屋で頭から水をかぶってしまったとか、そんな慣れないアリーナでの笑い話をしてました。


アリーナで観るJohn Grant・・・遠いなぁ(苦笑)

一昨年にHostess Club Allnighterで来日した時は、ザラザラしたオルタナティブな音で、しかもアルバム「Gray Tickles, Black Pressure」の曲なんて、ほとんど70年代ディスコ・サウンド。軽やかにステップを踏む「踊れるデブ」(笑)なジョン・グラントにビックリでしたが、今回はやはりアリーナらしい柔らかい音になっていました。でもそのおかげで、ピアノに向かう彼の伸びやかで暖かい歌声と、本来の曲の美しさが際立っていました。「その痛みは氷河のように通り抜ける でも彫りつけられた深い渓谷は、いつか壮大な風景へと変わる」と歌う「Glacier」は感動モンでした!

でも、そんなジョン・グラントがアリーナの観客に受け入れられるのか?と、少々心配でしたが、いやいや、こんな早い時間から会場に集まった人たちは、皆んなジョン・グラントも目当て。隣のオバちゃんなんて全曲一緒に歌ってましたよ。

そして近くのニイちゃんが「GMF!!」とリクエストしたけれど、(当然の事ながら)その声はステージには届かず。なので名曲「GMF」はやらなかったけれど、ラストは観客が声を合わせて「クイーン・オブ・デンマーク!!」の大合唱で締めて、満面の笑みのジョン・グラントでした。

ジョン・グラントを観た後でElbowだなんて、やっぱり最強な組み合わせだね。むふふ。


見よ!この客の数!これがイギリスでのElbowの人気だぁ!

ジョン・グラントが終わったあたりからビール片手の観客で席が埋まっていきましたが、2階席はやっぱり全体的に年齢高め。でも、高校生ぐらいの子供と一緒に来た家族連れも多かったです。イギリスではElbowは小学生からシニアまで幅広いファン層ですからね(過去のライブ・レポで書いてるように、なぜかいつもElbowのライブでは、小学生が柵前にしがみついているのです。)

そして、満席になったアリーナのステージにElbowが登場!

オープニングの「Starling」に続き、「Fugitive Motel」、「The loneliness of a Tower Crane Driver」なんて懐かしい隠れた名曲や、うわぁ、1stアルバムの「Any Day Now」まで(涙)実験的な音でありながら、センチメンタルで暖かい。そう、そう!これこそElbowの真骨頂!たまんないね!


Elbow at O2 Arena !

舞台演出も、ベスト盤のジャケに合わせて、スクエアな空間を作り出すシャープなライトや、ステージのバックいっぱいに映し出される映像も曲の世界観にマッチしてカッコいい!

前回観たライブがフェスティバルだった事や、最近はグラストンベリー・フェスでの映像ばかり観ていたので、合唱ソングがElbowのイメージになっていたけど、やっぱりこれがElbowだよね!フェスティバルで観たぐらいで、そのバンドを知った気になっていては駄目だな・・・と、しみじみ感じていたら、中盤からは、お馴染みのフェスティバル向け合唱ソング・セットに突入!こらこら!(苦笑)でも、合唱ソングもElbowの良いところだから。

ガイ・ガーヴェイの口笛に観客が答える「Lipy Kids」。この曲はどうしても涙腺が緩む・・・。Elbowの新たなシング・アロング・ソングとなった「Magnificent(She Says)」は2階席の観客も歌ってる。

12年前に観た時と同じように、ビールを飲みまくり、「Are you OK ?」と観客に何度も尋ねるガイ・ガーヴェイ。しかも去年のフェスでは、「あれっ?ガイの北部訛りが薄れてる??」と驚かされたのに、この日はノーザン・アクセント炸裂!全然変わってないよ!何言ってんだか分かんねぇよ(笑)マンチェスターやリーズをツアーしているうちに訛りが戻っちゃったのか??

ちなみに、このツアーが行われた時、イギリスは大寒波に襲われ、ロンドンも大雪。自分たちが利用した航空会社も出発前日までは減便運行で対応していたほどでした。しかし、いざロンドンに到着すると、いつも通りの寒さで拍子抜けしそうでしたが、ところが北部を回っていたElbowは実は大変だったようで、「スタッフのおかげで無事に今日のライブがやれたよ!」とガイがステージから感謝を述べているのを聞いて、「ひゃーっ!一歩間違ったらキャンセルになっていたかもしれないんだ!」と、今更ながら雪の怖さを実感。一応、雪のシーズンを避けて渡英の日程を決めたつもりでしたが、3月のイギリスはまだまだナメちゃいけませんね。

そしてアンコールでは「もう一度、大きな拍手を!ジョン・グラント!!」と、ガイの紹介にジョン・グラントが再びステージに登場!二人のボーカルによる「Kindling」が生で聴けるなんてぇぇ!英米の美声デブヒゲオヤジの二大巨頭のデュエットなんて、幸せ過ぎるぅ(悶絶)


英米二大美声デブひげオヤジ、夢の共演!

そしてお約束のラスト「One Day Like This」では、イントロが始まった途端に2階席まで総立ち。観客が掲げる無数のスマホの明かりも美しい。エンディングの大合唱では、観客にハモらせたかと思えば、「次は俺の訛りで歌え!」なんてガイの一言で、観客全員がいきなりモゴモゴした北部訛りで大合唱(笑)そんな観客を満足気な笑顔で見るガイ・ガーヴェイでした。


感動的なエンディング

2万人の大合奏で幕を閉じたElbowのアリーナ・ライブ。これだけ大勢の人を惹きつける超メジャーなバンドでありながら、オルタナティブな音と北部訛りを失わない。やっぱりElbowは素晴らしいバンドでした。そして(有り得ない事だろうけど)もし彼らが来日したとしても、残念ながら日本ではこの大合唱は味わえない。Elbowはイギリスで観るべきバンドなのです。

ライブ後は大混雑の中で地下鉄の駅へ(マンチェスターではこんな時に爆発が起こったのか・・なんて、どうしても頭をよぎります・・・)人混みの中から自然と歌が始まっては大合唱に。でもなぜか70年代アメリカン・ヒット・ソングばかりで、誰かが「One Day Like This」を歌い出しても、いまいち盛り上がらない。オイオイ、お前ら、Elbowのライブを観てきたところじゃないのか?!(苦笑)