ベン・ウィショーの舞台を観に、ロンドンへ - Part 2
Julius Caesar at Bridge Theatre ■ March/2018


シーザーとキャシアス from Julius Caesar / Bridge Theatreのサイトより
今回観た時はショートブーツを履いてました

映画「ロッキー」のテーマ曲や80年代USヒット曲のメドレーに、観客が戸惑いながらも何となくステージに集まって何となくダラーっと盛り上がっていたその時、突然後ろから来た人にドンっと体を当てられ、「痛っ!何だよ!」と振り返る間もなく、ステージに飛び出したその人は、うわっ!デヴィッド・モリッシーだぁ!!

アンソニーを演じるデビッド・モリッシーの突然の登場に、観客大盛り上がり!大酒飲みで夜遊び好きなアンソニーですから、ステージで大騒ぎ!観客を煽りまくる!おまけに上下ジャージ姿で、背中の「MARK ANTONY」のロゴがカッコ良過ぎですっ(笑)

アンソニーが引っ込んだ後も盛り上がるライブ会場!この後、一体、どうなるの!?と、頭の整理がつかないうちに、またしても客席から乱入者が!しかし、ステージ上のシーザーの弾幕を破り、「Get you home ! Is this a holiday?」と、バンドや観客に怒鳴りつける。うわぁぁ!いつの間にか「ジュリアス・シーザー」の第1幕に突入してるじゃないか!シーザーの凱旋行列を浮かれて待つ市民と、反シーザーの護衛官との口論で始まるこの劇。それをシーザー支持者によるライブ集会に置き換えるとはね。

想定外のオープニングに驚いているうちに、観客達の中の床が徐々にせり上がり、そこにはデヴィッド・コールダー演じるシーザー、ミシェル・フェアリー演じるキャシアス、そしてベン・ウィショーのブルータスがっ!いつの間に!?

そこから2時間ノンストップの「ジュリアス・シーザー」!スタンディング席の中で縦横無尽に変化するステージは、時にはブルータスの書斎、時にはシーザーの元へと伸びる階段、時には市井の演説台、そして最後には戦場へとダイナミックに移り変わる。


終演時にはこんな状態に様変わり

そんな客席の中でスタンディング客を誘導するのは、ある時は集会の警備員、ある時は黒いコートに身を包んだセキュリティ、そしてある時はライフルを構えた兵士たち。

シーザーが銃で暗殺されるシーンではセキュリティに「伏せろ!」と命じられ、訴状を手にしたブルータスが観客の中から現れ、気づけば隣に立っているシーザーの亡霊(デヴィッド・コールダーのオーラ、ハンパねえです!)、そして反逆者の仲間と思われた詩人のシナは観客たちの中でリンチされる(そしてその様子を取り囲んで見ている私たち。)

そして降ってくる爆薬の粉を浴び、飛び散るデヴィッド・モリッシーの唾を思わず避ける(笑)

ストーリーの中に巻き込まれていくような臨場感に、エキストラというより、まさにこの事件の目撃者になったような感覚!何て自由な発想のシェークスピア劇なんだよ!!でもこの緊張感と、2時間あっちだこっちだと追い回されたおかげで、ホテルに帰った頃にはヘロヘロになりましたけど(苦笑)


インテリなブルータスを演じるベン・ウィショー
from Julius Caesar /Bridge Theatreのサイトより

そんな中でベンが演じるブルータスは、ローマ人イコールむきむきマッチョなイメージなのに反して(イメージが貧弱?)細身のツイード・コートに身を包み、本を離さない学者肌でインテリ。端整で理知的なブルータス。うーん、美しいっ!

そしてアンソニーと戦争になり、苛立ちからキャシアスと大喧嘩となるブルータス。感情を爆発させるベン・ウィショーは、うーん、やっぱり美しい。そして怒鳴るブルータスの姿が一瞬「The Hollow Crown」でのリチャード二世とダブったりして(同じシェークスピア劇だから?)気がつけば、向こうにはノーザンバランド公までいるし(苦笑)(「The Hollow Crown」ではリチャード二世に反乱をおこすノーザンバランド公をデヴィッド・モリッシーが演じているのです。)


ノーザンバランド公・・じゃなくて、アンソニーを演じるデヴィッド・モリッシー
from Julius Caesar /Bridge Theatreのサイトより

しかし、むしろシーザーに疎まれた私怨的感情がキャシアスの動機なのに、そんな彼女に煽られ、ブルータスはシーザー暗殺を決意してしまう。そんな純粋というか、人を信じ過ぎというか、ちょっと間の抜けたブルータス(笑)アンソニーの口車に乗せられて、彼が市民の前で弔辞を述べる機会をあっさり認めてしまうブルータスに、キャシアスたちは「マジか!?」と大慌て。思わず「ブルータス・・・a word(ちょっと話が)」と深刻な表情のキャシアスと、何で呼ばれたのか分からずにポカーン顔のブルータスに、観客は思わず吹き出してしまう。

召使いのルーシャスとのとぼけたやり取りも観客大笑い。そして戦場なのに手をアルコール消毒するブルータスの仕草は、その演技が見えた一部の観客には大ウケでした。

おまけにシーザー暗殺のシーンでのブルータスのセリフ「我々はシーザーを死の恐怖に怯える日々から救ってやったのだ!」も大笑い。そこ、笑うトコだったの!?

渡英前に原語版を読み、オーディオ・ブックまで聞いて予習しましたが、やっぱりシェークスピアは舞台のために書かれた作品なんだね、と実感しました。俳優たちが演じてこそ、その世界に命が吹き込まれる。本で読んだだけで、シェークスピアは分からないとか、つまらないとか判断できないなぁ。


National Theatre Liveでの予告編

今回の舞台では、出演者やスタッフたちはトランプ大統領やBREXITについて何度も話し合ったと、ベン・ウィショーがインタビューで話していました。そしてブルータスを「メトロポリタン・エリート」な政治家だと表現していました。それは、政治を自分たちのものにして、自分たちこそが正しいと思い、人々の声を聞かなくなった政治家であり、そんな彼らへの反動として台頭したのがポピュリズムであり、その結果がBREXITやトランプ大統領の誕生でした。


市民に向けて演説するブルータス from Julius Caesar /Bridge Theatreのサイトより

この舞台では、シーザーは黒ジャンバーに赤いキャップ姿で、まるでトランプ大統領のような姿で登場し、そして彼を取り巻く二人の政治家は、知性のブルータスと、庶民的なアンソニー。しかし、シーザー暗殺の正当性を市民に説明し、「ローマ市民は自由になったのだ」とブルータスがマイクを通して訴えても、ブルータスを次の指導者として歓迎する市民たち。しかし、マイクを使わずに直接市民に訴えるアンソニーは、シーザーの遺言だとして市民全員に現金をばらまく約束をする。それに狂喜する市民たちは、暴徒と化してブルータスたちをローマから追い出す。

そして、エリート政治家とポピュリストの政治家の対立は戦争へと突き進んでいく。

でも、この舞台の一部となった観客は、実はこの政治家たちを生み出したのは自分たち自身なのだと気づかされる・・・。


マチネの後、フツーにロビーをブラブラしてたデヴィッド・モリッシー(笑)写真を撮らせてもらったのに慌ててちゃってブレブレ(涙)

2000年以上前の暗殺事件を描いた「ジュリアス・シーザー」で、現代の政治的危機状況を描いた今回の舞台。とはいえ、舞台を観ながらここまで考えるには、やっぱり英語力が足りませんでした。予習の甲斐あって、どのセリフを言っているのかは何となく分かっても、シェークスピアの台詞がダイレクトに脳みそに響くようになるには、まだまだ道のりは長いなぁ。

しかし、イギリス人はちゃんと10代の観客も笑ったりしていました。あんな古典的英語でも分かるんですねぇ。

今回の舞台では10代の観客が大勢来ていたのに驚きました。安いスタンディング席のおかげか、それともダイナミックな演出が受けたのか。音楽フェスのようにグループで来ている子たちや、先生に連れられた制服姿の子たちもいました。その年齢で生のベン・ウィショーを観られるなんて、羨ましい限りだよっ!そういえば、ドラマ「ゲーム・オブ・スローン」に出演するキット・ハリントンは、高校生の頃にベン・ウィショーが演じるハムレットを観て、演技を勉強して俳優になろうと思ったそうですが、もしかしたらこの舞台の観客に、未来の名優がいたりして??

ところで、通常の椅子席であるGallary1はどうだったのかと言いますと、さすが90ポンドの値段をつけるだけはあって、目まぐるしく変化するステージ全体から観客の動きまで見えて、この舞台を「体験」するスタンディング席に対して、暗殺事件を「俯瞰」するGallary席という感じでした。

しかし、やっぱり迫力のスタンディング席が良いなぁ、なんてちょっと心の片隅で思っていると、隣の席のおじさんが、コートを置いてスタンディングに行ってしまいました。おおっ!その手があったのかぁ!!確かにスタンディングとGallaryの間にはチケット・チェックもないので、行き来し放題(スタンディングからGallary席はダメだけどね。)一瞬、下に飛び降りる衝動にかられたものの、いやいや、今日は荷物を預けていないし、90ポンド払わなければ観られないモノがあるはず!と、何とか自制心を効かせる。


その辺をブラブラしてくれないベン・ウィショー(苦笑)この日のベンは今更ながらドキッとするほど美しかったのに、暗くてブレブレ(涙)もうちょっと写真を練習しよう・・・

確かにスタンディングでは全てのシーンが常に見える訳ではなく、場面によっては俳優たちが良く見えませんでした。初日なんて、一幕の間、ずーっとにソファーの背もたれを見る羽目になった事も(苦笑)その代わり、別のシーンではその場所でベンをかぶりつきで観られましたけどね。なので、Gallary席では全てのシーンをしっかり観られましたが、でも気がつくと結局はベン・ウィショーの動きを追ってたりして(苦笑)ステージを降りた後のベンの動きとかね。それからベンが観客の中で待機している時の周りの反応を観察しちゃったりして。前の人は全く気づかず、隣は「え?え?ベン・ウィショー??」って感じで横目でチラチラしてました。

この「ジュリアス・シーザ」は11月に「ナショナル・シアター・ライブ」として日本でも劇場公開されます。このダイナミックなステージをどうやって映像に捉えたのか、とっても楽しみにしてます。もしこのブログを読んでちょっとでも興味をそそられたら、こちらの→NTライブの日本サイトで上映館をチェックして、美しきベン・ウィショー、飛び散るデビッド・モリッシーの唾を是非ご堪能下さい!!


こんなロケーションのブリッジ・シアター
ロビーのレストランは朝10時から開いてるので、この辺りを訪れた時の休憩にお勧め!
紅茶や食事も美味しいし、トイレは男性・女性のどちらに入るか悩んでる方もウェルカムです!