Morrissey at London Alexandra Palace ■ 9/March/2018

「今度のロンドン旅行の時にモリッシーのライブがあるよっ!」
と、いきなりダンナの一言。UKアマゾンからメールが届いて、モリッシーのニューアルバム「Low in High School」をアマゾンで予約すると、ロンドンでのライブ・チケットが優先販売で買えるんだって。ええ〜っ、遂にアマゾンに魂を売ったか、モリッシーっ!?(笑)


Morrissey at Alexandra Palace

いえいえ、私だってアマゾンは日々利用してますよ。でも、モリッシーのライブか・・・最近の彼のアルバムはどうしてもついていけない(というか、耳が拒否するの。)ライブもかれこれ40回近く観ているけど、最近はバック・メンバーの「とりあえずモリッシーの言う通りに演奏しときます」感が酷くて、モリッシーの体型のごとく、ハリも勢いもないライブを観るのが辛い・・・。

今回は英国俳優ベン・ウィショーの舞台を観るための渡英だったのに、たまたまその日程にモリッシーのロンドン・ライブがハマり、運が良いのか、悪いのか(苦笑)でも、ロイヤル・アルバート・ホールでのライブの日は、既にElbowのチケットを買っているし、アレキサンドラ・パレスの日は、翌日に同じ会場でEverything Everythingのライブに行く。だからこの日ぐらいは小さいクラブでライブでも観たいなぁ・・と、消極的な私に、
「ロンドンでモリッシーのライブが観たいの!行くのっ!」
と、珍しくモリッシーに行く気満々のダンナに押され、しぶしぶ(?)アレキサンドラ・パレスのライブのチケットを買う事に。

でも、アマゾンの優先販売はやっぱり気が進まないので、ロンドンの老舗チケット販売店Stargreenでの一般販売で購入しました。イギリスは整理番号がないので、売り切れなければどこで購入しても一緒ですからね(Stargreenは国外からの注文には店頭手渡しのみの対応ですが、その代わりに昔ながらの紙のチケットを用意してくれるので、それが嬉しいのです。今回は割り当てが少なかったのか、10分ほどで売り切れていました。)


会場で見つけたので撮影したら、メッシュ生地にプリントされていてこんな状態に
ちなみに前日はRag'n'Bone Man、翌日はEverythign Everything

そして、ライブに行くなら一応ニューアルバムを聴いておかないと、と思ったものの、今回のアルバムはさすがに酷過ぎる(苦笑)まとまりの無い素人のごとき演奏と、そこに乗っかっているだけのモリッシーのボーカル。どうせならフル・オーケストラや一流の演奏家を集めて製作していれば、もっとマシなアルバムになっただろうに・・・。金をケチっているの?モリッシー??(笑)

そしてロンドンへのキャセイ・パシフィックの機内でもパーソナル・エンターテイメントに「Low in High School」が!そこまでして私に聴けと言うのか!?まぁ12時間ものフライトだからと聴いてみたけれど、やっぱり耳が拒否するの(苦笑)代わりに映画「パディントン2」でベン・ウィショーが演じるパディントンの声を子守唄に寝続けました(モリッシーよりクマの声の方が良いのか!?)

そして、ベン・ウィショーの舞台を4回観て、ベン・ウィショーにサインももらって、満腹気分で迎えたモリッシーのライブ当日。

北ロンドンの小高い丘の上にあるイベント・ホール、アレキサンドラ・パレス(通称アリ・パリ)は、ビクトリア時代に庶民のレジャー施設(”庶民のパレス”)として建てられ、正面の巨大な丸窓が印象的な建物。一時はBBCの放送施設としても使われ、建物の横に立つアンテナ塔と合わせて、北ロンドンのランドマーク的存在です。

ここでモリッシーを観るのは、確か「Your Arsenal」ツアー以来(何年前??)サポートのカースティ・マッコールのステージに、ザ・ポーグスのシェーン・マクガヴァンがサプライズ出演!二人が歌う「Fairly Tale of New York」が夢のようなクリスマス・プレゼントでした。そしてグラムにハマっていたモリッシーも痩せていて、金ラメ・シャツ姿でマイク・コードをブンブン振り回していたなぁ・・・。

当時、アリ・パリは行くのがとっても面倒くさいライブ会場のひとつで、観光客向けの地下鉄路線図から飛び出してWoodgreen駅まで行き、そこからさらにバスで丘を登らなければいけませんでした。そしてライブ後はいつ乗れるか分からないバスを諦め、延々と坂を降って行くと、途中にあるナショナル・レイルのアレキサンドラ・パレス駅でいつ来るのか分からないような列車を待つ人影がポツンポツンと見えたもんです。

しかし、モリッシーも変わればロンドンも変わります。今回滞在した東ロンドンのハックニー地区はアリ・パリへのアクセスが楽々!当時は東ロンドンに泊まるなんてとんでもない話だったのに(だって、大昔にはJack The Ripperが暗躍した地域ですよ!)今ではすっかりロンドン・カルチャーの中心地。当時は分かり難かったナショナル・レイルの郊外路線も、Overgroundと名を変えて、Undergroundと変わらないほど便利に!それを使ってビュッとHighbury&Islington駅に行き、そのままOyster Card(地下鉄・バスのプリペイド・カード)を使ってナショナル・レイルに乗れば、数駅でアレキサンドラ・パレス駅へ。あんなに淋しかった駅も、今では列車からドドっと降りてくるモリッシー・ファンを捌くために駅員が出動するほどの変わり様でした。


この日のマイク・コードはブンブン回ってました

ただ、この日はあいにくの雨。この1週間前にイギリスは大寒波に襲われ、ロンドンも大雪にみまわれました。予報ではこの日は最高気温2、3度と言われていたのが、実際にロンドンに到着してみると、通常のロンドンの寒さ。天気もそこそこ上々で、この日も予想とは逆に14、5度にまで気温が上昇。でも日中に雨に振られたのはこの日だけ。坂道を上がりながら「さすがモリッシーだ。やってくれるな。」とダンナが苦笑してました。どう?ミゼラブルな気分になった??

丘の上から雨にけぶるロンドンを眺めながら10分程でアリ・パリに到着。既に開場しているはずなのに行列が続いてる?「そっちの列に並んで!」と、セキュリティのおばちゃんに言われるままに並ぶと、後から到着した人たちの列が先に誘導される(苦笑)イギリスのセキュリティの理不尽さに、今さら腹を立てても仕方がありません・・・昔なら怒り狂っていたけどね。

やっと入口に到着すると、そこでは男女に分かれての入念なボティ・チェックがあり、このせいで入場が滞っていたみたい。おまけに「リュックは持ち込めないわよ!クロークに預けてきて!」えっ?強制ですか?これまた言われるままクローク・ルームに行くと、ちょっとしたダンス・ホール並みに広い部屋の半分のスペースが荷物預り所になっていました。ライブ後の混雑を考えるとゲンナリ・・・。昔ならクロークに預ける時間が惜しくて、荷物なんて持って来なかったけどね。今はどれだけやる気がないんだ(苦笑)


Morrissey at Alexandra Palace

ホールに足を踏み入れると、モリッシーがセレクトしたパンクやオールディーズ、ガールズ・ポップがガンガン流れていました。今回はチケットを購入したStargreenからメールが届き、モリッシーのライブはサポートがないので、”モリッシー”は8時からスタートすると書かれていました。という事は、ライブは1時間半で終わるので、案外早く帰れるな・・・と思っていたのに、場内で流れるモリッシー・セレクトを聴いていて、ハタと思い出した!「ああっ!サポートはないけど、代わりにモリッシーの教育ビデオがあるのかぁ!?」

最近のモリッシーのライブでは、モリッシーが出てくる前にこれまたモリッシー・セレクトによるミュージック・ビデオが延々と流れ、ファンの間では「モリッシー先生の教育ビデオ」なんて呼ばれてますが、予想通り、ラモーンズやセックス・ピストルズなどの往年のパンクから60'sガールズ・ポップ、懐かしのtATuまで、YouTubeで拾ってきたかの様なビデオを延々と見せられ・・・モリッシー、ちゃんと著作権料を払ってる??(苦笑)

そんな時、いきなり後ろで殴り合いの喧嘩が!さらに横では「始まったら前に突っ込んでやる!」とベロベロに酔って息巻く10代の女の子に、「うるせえ!俺たちは早い時間から並んでたんだよ!」と怒るオヤジ・・・いつからモリッシーのファンがこんな血の気の多いビール腹オヤジになったんだ?と、フト考えてしまいました。90年代にモリッシーがスキンヘッズ好きをアピールする様になった頃かな。きっと昔はグラジオラスを抱いたヘナヘナ君だったファンは、今でも最前列ど真ん中あたりにいるんだろうけど、彼らの後ろはこんな雰囲気になってたのね。


Morrissey at Alexandra Palace

1時間近い教育ビデオの後、遂にモリッシーが登場!あれっ?髪が真っ白?パツ金??

そして予習の甲斐無く、オープニングから知らない曲だよぉ・・・と思ったら、実はエルビス・プレスリーのカバー。そんなモン、知らなくてあたりまえ(苦笑)

でも、やはりメインはニュー・アルバムの曲。こちらは予習のおかげで聴けばだいたい分かる。そして「Glamorous Glue」や「How soon is now?」なら歌えます!大好きな「Jack the Ripper」は嬉しいけど、やっぱりシングルB面曲としてリリースされた頃に比べると、緊張感がないというか・・・。(そして「Speedway」は演らなかった。あのスペイン語バージョンを聴かされるぐらいなら演ってもらわない方がマシ・・・。)でも、ニューアルバムの曲も、ライブならモリッシーの声が前面に出てバックの演奏も気にならず、そうやって聴くと、うん、そんなに悪くないかな(「良い」とは言わない(笑))

と、文句言いながらも、「Hold on to your friends」は大声で歌っているし、「おおっ!今日はマイク・コードの振りがキマってる!」なんて喜んでる自分に気づく。

ステージの真横近くから観ていたので、(おそらく)ステージの奥で流れていた映像は全く見えなかったし、時折、モリッシーがステージ前のセキュリティ・ピットに手を差し伸べるのを見て、「ああ、誰か飛び込ん だな」と分かる程度。

そしてアンコールはラモーンズの「Judy is a Punk」。パンクの名曲を微動だにせず歌うモリッシー(笑)


Morrissey at Alexandra Palace

ラストの「Irish Blood, English Heart」は、Brexitの国民投票以来、初めてこの曲をイギリスで聴いて、これまでとは違う意味を感じてしまいました。

そしてお約束のシャツ脱ぎ。うっひーっ!この歳になっても脱ぐのか!でもあんな体になっても(年相応な体型だよね)1万人の前で脱いでしまうなんて、さすがモリッシー!とヘンに感動しちゃった。シャツで脇下を拭う姿は高見盛のようだったけどね(笑)

ライブ後はクロークのスタッフが想定外にキビキビと働いてくれたので、他の観客たちと一緒に雨上がりの坂道をAlexandra Palace駅へと急ぎました。「すぐに次の列車が来るから慌てないで!」と呼びかける駅員の言葉を誰も信じず(だって、ホームの電光掲示板に次の列車は「Cancelled」って書いてあるんだもん(笑))やって来た列車に押し合いへし合い乗り込みました。

日本のラッシュ並みにギューギューの車内で路線図を見ていると、「ああっ!この列車、Kings Cross駅行きだよ!!」乗る列車を間違えた。う〜ん、次の駅で降りて、Islington行きを待つべきか・・・まぁ、Kings Cross駅からはバスでも帰れるしね。

ホッとするのも束の間、「あああっ!Oyster Cardの『ピッ!』をやり忘れたぁ!!」

「ピッ」とは、プリペイド・カードの読み取り機にかざす事。ロンドンの郊外では改札がない駅も多く、しかも読み取り機は、ホームにひっそりと置かれた金属製ポールに何の説明もなく埋め込まれているので、よほど意識していないと忘れそうになります。今日は慌てて列車に飛び乗ったから忘れてたぁ・・・乗り込んだ駅の記録が残っていないので、Kings Cross駅で「ピッ」とすると自動的にマキシマム料金が引き落とされる(らしい)一応、駅員に説明してみようかな・・・でも、一緒に乗り込んだ人たちも「ピッ」してなかったよね??

と、あれこれ心配していると、到着したKings Cross駅の改札は解放状態。誰も「ピッ」せずに出て行きました。ああ、助かったぁ・・・(でも本当はダメですよ!)

ところで、初のモリッシーinロンドンを観たダンナさんですが、とても満足していました。そして初めてモリッシーをステージ近くで観て、「この1万人の観客が俺を観にきたんだ」と言わんばかりのモリッシーの自意識と、「俺様」オーラにめちゃくちゃ感動したそうです。

私は・・・モリッシーがこの世に居て、歌っていてくれるなら、それで嬉しいかも、と感じてる自分が良くわかりました(苦笑)

【余談】とってもどうでもいい話

ライブの話を期待してこのページを読まれた方には申し訳ない程、どうでもいい事ばかり書いてますが、さらにもっとどうでもいい話題を。


Julius Caesar at Bridge Theatre / Bridge Theatreのサイトより

今回の渡英の目的はベン・ウィショー出演の舞台「ジュリアス・シーザー」(byウィリアム・シェイクスピア)でしたが、この舞台で共演している俳優がデヴィッド・モリッシーという名前なのです(写真左から2番目のヒゲオヤジ)。初めて彼の事を知った時はビックリしましたが、意外とモリッシーという名前の方がいるもんですね。

シェークスピア劇で現代の政治的危機を描いて非常に面白かったので、その話に興味ある方はこちらへ→。そして11月に日本でも「ナショナル・シアター・ライブ」として映画館上映されますので、ぜひご覧くださいな!


National Theatre Liveでの予告編。こんなシェークスピア劇なのです。

そしてさらにおまけの話で、そのベン・ウィショーが英国アカデミー賞主演男優賞を受賞した2012年のBBCドラマ「The Hollow Crown」。ここでもデヴィッド・モリッシーと共演していますが、このドラマで悲劇のイングランド王リチャード二世を演じたベン・ウィショーは、この役のために監督とモリッシーやオスカー・ワイルドについて何度も話したそうです。幼くして王になったリチャード二世が突然の反乱で王位を失う。彼の傲慢さ、自己憐憫、うーん、なぜモリッシーをイメージしたか分かるわぁ(笑)、なんて思わせてくれる美しき国王を演じていますので、興味が湧いた方はぜひご覧ください!(確かHuluで観られるはず。)


ベン・ウィショー演じるリチャード二世と、デヴィッド・モリッシー演じるノーザンバランド公です from The Hollow Crown / BBC