「アラビアのロレンス」を巡る旅 in UK/2006年2月

2006年2月17日/ナショナル・ポートレート・ギャラリーにて

ロンドン初日。
朝からロレンス展に向かいましたが、この日は3時にナショナル・ポートレート・ギャラリーに行く約束があったので、早々に切り上げてました。

ナショナル・ポートレート・ギャラリー(以下NPG)はイギリスの著名人の肖像画や写真だけを集めた国立美術館です。

と、いうとは、ここに何かロレンスのものがあるだろうとインターネットで調べてみると、オーガスタ・ジョンの描いた肖像画やハワード・コースターの写真など20点ほどが所蔵されていました。
でも、なぜか全部「NOT ON DISPLAY(展示していません)」
「なんで仕舞いこんでいるんだよ〜!!!見せろぉ!!」と、ホームページを読んでいくと、どうやらアポイントメントをとれば見せてくれるらしい。

えっ、アポイントメント?どうしようっ!単にロレンスに熱を上げているだけのおバカなヤツがアポを取って所蔵品を出してもらう??そんなの許されるの??・・・・ま、いいや、とりあえずメールしちゃえ!と、相変わらず、後先考えずに問い合わせを出してしまいました。

ただ、このギャラリーは絵画と写真(もしくは年代?)で二つの管理セクションに別れていて、ロレンスのものはその両方に別れて所蔵されていました。それぞれにアポをとる必要があったので、今回はとりあえず古い写真と絵画を保管しているセクションだけに問い合わせました。

すると、すぐに返事が返ってきて「金曜日なら私の都合がいいけど、どうかしら?」と、かなりフレンドリーな雰囲気。それに気をよくして「その日で結構です!午前中に『ロレンス展』に行くので、午後3時でも構いませんか?」とすぐに返事しました。

なぜわざわざ『ロレンス展』のことを書いたかというと、所蔵品の中で最も有名なオーガスタ・ジョンの鉛筆画は「戦争博物館に貸出中なのでそちらで見られるわよ」と返事のメールに親切に書かれていたんです。
それを読んでやっと気づいた。「あ〜そうか、今はロレンス関連のものが全部回顧展に貸し出されているんだ。」
ロレンス展に行けばイギリス中に散らばっているものが簡単に見られるけど、反面あるべきものがそこにない、という状態になっているんだ。すごくビミョ〜。

ともかく今度は「申込書」がメールで送られてきました。やっぱり連絡先とか身元保証人とか提出しないといけないのね。
そこで悩んだのが「作品を見たい理由は?」の欄。何て書けばいいのぉ!いっそ「ロレンスは私にとってラクダに乗った王子様です」とでも書こうか?と思いましたが、さすがにそれはアホです。無難に「T.E.ロレンスに興味があり、勉強(?)しているため」と書いておきました。

こんな感じでアポは上々。当日はロレンス展で先にオーガスタの絵を見て、あっという間に2時になってしまい大慌てでNPGへ向かいました。

NPGはナショナル・ギャラリー(国立美術館)の裏にあります。
着いたらインフォメーションに問い合わせるように言われていたんですが、指定されたインフォメーションが分からない。あれ?あれ?おかしいぞ?とキョロキョロしていたら、通りを挟んだ反対側のビルにもNPGの文字が。もしかして、そっち??

でも外観はまるでフツーのオフィス・ビル。こんなところに入っていいのかなとドキドキしながら受付で「今日、所蔵品を見るアポを取ってあるんですけど」と言うと、受付のおじさんが「これが君かな?」とパソコンの画面に現れた名前をにこやかに指差しました。しかしそれはなぜか私の母親の名前!?なんで!?

あ、そうだ、申込書の保証人に母親の名前を書いておいたんだ(苦笑)
「それは違う!それは私の・・」と言いかけたら、「じゃあ君の名前をここに書いて・・・ん〜っ、まぁ大体一緒だからいいんじゃないの〜」と陽気に名前を打ち直して臨時の入館証を作ってくれました。いいのか?こんないい加減で??

少し待っていると「こんにちは〜!」と、メールでのフレンドリーな雰囲気そのままの、学生みたいな感じでメガネをかけたキュートな職員が笑顔で迎えにきてくれました。

「こっちよ。絵は用意してあるわ」と、中に案内されました。研究員たちの机の間を通り抜け研究室のような部屋に入ると、机の上にお願いしていたロレンスの作品が裸の状態で置かれていました。

「ロレンスの本を書くのかしら?」と案の定なコトを聞かれ、「ううん、これは単に自分の・・・」「『興味のため』ね?」と、思わずハモっちゃうし、「そういえば、今日はロレンス展に行ってきたの?」「うん、ほら!」と戦争博物館のショップの袋を見せたら笑われちゃったよ。ミーハーっぷり全開(苦笑)

お願いしたのは、アラブでのロレンスの写真1点と、オーガスタ・ジョンが描いた作品2点でした。その作品に関するあらゆる書類をひとまとめにしたファイルも置かれていて、「それも見ていいわよ」と中を出してくれました。

アラブでの写真は、ベドゥインのテントの前でアラブ服のロレンスが立っているもので、小さくて本当に昔の写真という雰囲気でした(これとは反対にロレンスの後年の写真を回顧展で見ると、現代の白黒写真とあまり変わりがなく、彼が生きていた短い時代の間だけでも写真の技術がかなり進歩したのがよく分かりました。)

「説明があるわね。『1916年、アカバへ出発する直前に撮られた』と書いてあるわよ」と言われると、ウンウン!とうなずいてしまう私。
「あ、この写真、日本に行ってるわよ」「えっ!?」「80年代に東京と大阪のSEIBUに行ってるわ」というコトは、その頃に西武がロレンス展を開催したってコトか!?三越じゃなくて西武だったとは。

そしてオーガスタの作品2点は軍服を着たロレンスの横顔です。スケッチ風な絵で、やっぱり柔らかい表情のロレンスを描いています。いくら絵を鑑賞する眼がない私とはいえ、本物を見るとその質感に引き込まれますね。

ひとつの作品は本で見ていましたが、実物は薄茶色のザラッとした紙に描かれているのを初めて知りました。
「この紙って何なんだろう?」とフト聞いてみると、「ん〜なんだろう。ちょっと待ってね。ねえ!」と、それまで一人で部屋の隅でパソコンに向かっていた女性に声をかけました。「彼女は紙の専門家なのよ」と言われ、ええ〜っ!そ、そんな大げさな!
その女性は「何かしら」とか言いながらペンライトを紙に斜めに当ててみたりして、なんかエライことになってしまった〜!しかももし紙の種類が分かっても英語で言われたら私は分からんぞ〜!と一人内心でドキドキしていると、「ん〜ちょっと分からないわね。ごめんね〜専門家なんて言ったくせに」と陽気に笑って戻っていってしまいました。あはは。

他にも絵を見に来た人がいたので「所蔵品を見たいという人は頻繁にくるの?」と聞いてみると、「そうね。日に一人くらい来るわね。」へえ、結構来るんだ。そんなにドキドキする事もなかったね。
「それに、時には他の街のギャラリーに置いてある作品を見たいという人もいるから、そんな時は私たちが直接取りにいってくるのよ」へえ〜っ、丁寧なんだなぁ。日本で非公開の作品を見せてもらおうなんてしたことすらないけど、こんなにマメな対応をしてくれるのかなぁ、と思ってしまいました。

そんな風に30分ほど見て充分満足したのでお礼を言うと、「あら、もういいの?」と言われ、「うん。満足です。ほら、美術館とかで1時間も2時間も一枚の絵を見ている人がいるでしょ。でも私はあんなコトができないから」と答えると、笑って「大丈夫。そんな作品に出会う時もあるわよ。」と言ってました。

その後はギャラリーのショップに行って、ロレンスの写真や絵の複製を作ってもらいました。

NPGは所蔵している作品のほとんどをデーター化しているので、ショップで注文すれば、その場で複製を作ってくれるのです。
ついついあれもこれも欲しくなるけど、結構いい値段になっちゃうんだよね。ヤバイヤバイ。といいつつ、回顧展で見たハワード・コースターの写真を何枚か購入しました。
それから後日、ネットからミランシャでのロレンスの写真を印画紙に焼いてもらうよう注文。印画紙印刷は高いけど「写真」らしい質感になるなぁ、な〜んて偉そうなことを思ったけど、デジカメ使いがなにを言うか〜って突っ込まれそうです。