「アラビアのロレンス」を巡る旅 in UK/2006年2月

2006年2月21日/ロレンスの手紙を見に大英博物館へ

朝、サザンプトンからロンドンに戻って、ホテルにチェック・イン。そして休む間もなく大英博物館へ向かいました。

「そうだ!ロレンスは大英博物館の発掘調査隊に参加していたんだから、博物館で何か見られるかもしれない」

旅行の出発前に大英博物館のサイトでロレンスの名前を検索してみました。するといくつかの発掘物が出てきました。でもあくまでロレンスが関わっていたという説明文がついているだけ。こんなモンか・・・と思っていたら、最後に「 Letter from T.E. Lawrence (Lawrence of Arabia) 」なんてのがあったぁ!

それはロレンスがアレッポ(シリア)のホテルから隊長のウーリーに宛てて書いた手紙でした。「よっし!これを見にいくぞ!」と張り切ったものの、よく読むとこれも非公開・・・またかよぉ!!なんでもこの手紙は「Archives Students' Room」というセクションにあるらしく、そこは所蔵品ではなく博物館に関係した人たちの資料が保存されているようで、そして火曜日と木曜日に限りアポイントメントをとれば見せてくれると書いてありました。またアポかよっ!まぁいいやっ!!と、さっそく博物館にメールを出しました。

しかし・・・よ〜く考えてみると・・・ロレンスの手紙?しかも自筆?まずいぞ、私にはロレンスの筆記体の文字は読めないっ!!つまり「わ〜いわ〜い!ロレンスが書いた手紙だぁ!」なんてミーハーな様子を天下の大英博物館の職員に見せちゃうワケ??うわ〜っ、赤面モンだよ〜っ(汗)あっ!でも以外とこれもロレンス展に貸出中なんて言われるかも?
なんてあれこれ考えている私にはお構いなしにすぐに返事が届きました。

「Archives Students' Roomは現在は火曜日しか開いてませんが、その日でよければご返事ください」とのこと。この手紙は回顧展に貸し出されていないんだ。つまりここでしか見られないってコトなんだよね。
もう、いいや!見たいんだから見せてもらおうじゃないの!と、その日の2時にお願いしますと返事を送ると、またすぐに「アポは成立しました。当日インフォメーション・デスクに問い合わせてください」と簡単なメールが返ってきました。あら、あっけない。ナショナル・ポートレートギャラリーみたいな申込書はいらないの?

そしてアポの当日。

博物館へ向かうバスの中で、実はあまり気分は盛り上がってませんでした。
だって申し込んだ時はロレンスの手紙なんて見たことがなかったので興奮してたけど、でももうロレンス展で山のように手紙を見ちゃったしなぁ〜・・・
なんてクソ生意気なコトを考えながらも、ともかく博物館に到着しました。

博物館から帰っていく人の波を避けながら玄関を入ると、
「うわぁ!!なんだ、コレっ!?」
ガラス張りの天井のホールのど真ん中に、いきなり円形の建物がありました。そうだ、そういえばこんなモノが出来たと何年も前にニュースで見たなぁ。ここに来るのはン年振りだから、この変化に驚きました。約束の時間にはまだ少し時間があったので、その建物の中に入ってみると、すげえ〜!どうやら図書の閲覧室で、吹き抜けの2階建ての壁にギッシリと本が並んでいる!本の古めかしさと設備のモダンさが不思議にマッチして、なんだかまるでハリ・ポタにでも出てきそうな図書館だ。

と、これでちょっと気分が盛り上がってきたので、さっそくインフォメーション・デスクに向かいました。

「Archives Students' Roomにアポがあるんだけど」と言うと「どこのセクション?」と聞かれ、えっ?セクションなんて分からないぞ。「え〜っと、この人にアポをとったんだけど」とメールのプリントしたのを見せたら、「あら、違うわよ。インフォメーション・デスクはあっちよ。」と言われてしまいました。きゃ〜っ、恥ずかし〜、間違えた〜っ!

慌てて反対側のインフォメーション・デスクに行くと、「そこのベンチで待っていてね」と笑顔で答えてくれました。しばらく待っていると、30代くらいのいかにも博物館の職員という感じの男性が早足でやってきました。インフォメーションの係員が私を指差すと、「こんにちは、初めまして!」とにこやかに迎えてくれました。

すると2人のスーツ姿の男性もこちらにやって来て、「この人たちも同じセクションに用事があるから一緒に案内するよ」だそう。
歩き始めると彼らは職員と話しをしていて、でも会話が専門っぽくてさっぱり分からない。こちらときたら、ジーンズにたすき掛けのバッグなんて風貌だからなぁ。ああ、場違いだったかも〜、なんてショボンとしていると、それを察したのか職員がニッコリ笑ってくれたけど・・・はぁ〜。

建物を回って通用口のような玄関を入ると、またしても「うわぁ!」天井の高い通路の壁一面がガラス扉の年代物の本棚になっていて、こういうカビくさい雰囲気、いいなぁ〜。そして通された部屋も、オークの家具や床が重厚な古めかしい部屋で、本やら資料が雑然と積まれているんだけど「英国」な匂いにまた一段とドキドキする。

「ちょっと待っててね。彼らのものを先に用意しちゃうから」と言って、何やら菓子箱くらいの大きさの箱を持ってきて、彼らに説明していました(結局何を見ていたのか最後まで分かりませんでした。)

「さあ、こっちが君の席だよ」と呼ばれて行くと、どっしりした机の書見台の上になにか分厚い大きな本がドンと開かれていました。え?なんで本なの?と不思議に思って近づくと、「ロレンスの手紙はこの最初の4ページだけなんだけどね〜」とペラペラと見せられ・・・

えっ!?ちょっと待って!
今、目の前の本の中にあるのがロレンスの生手紙!?マジですかぁ!?わ、わたくしなんぞがロレンスの手紙を直接触っちゃっていいんですかぁぁ!!??マジですかぁぁ!!??

「他の手紙はほとんどウーリーからのものなんだよ。でも興味があれば全部見ていいからね。ここは4時に閉まるから、それまでゆっくり見ていてね。」
2、3の注意点だけ言われて彼は別の部屋に行ってしまいました。ぼーぜん。なんておおらかなんだ・・・。

恐る恐る本を見てみると、どうやらそれはカルケミシュ発掘隊からの手紙を製本したもののようでした。中表紙が開かれていて、そして1ページ目にロレンスの文字が・・・。
ホテルの名前が入ったA4くらいの大きさの便箋で、几帳面に四つ折りされた跡が残っていました。「よし、じっくり読んでみるか」と思ったものの、いくらここ数日の回顧展通いで慣れたとはいえ、やっぱりロレンスの筆記体を解読するのは、ロゼッタ・ストーンを解読するくらい難しいよぉ〜(おおげさ?)

それにあくまでプライベートな手紙だから、書かれている背景がよく分からないんだよね。現場を離れているウーリーに近況を知らせる手紙みたいだけど、雨がひどいとか、ダフームがいくつ発掘品を見つけたとか(「Dah. 」と書かれていた)、トルコ(かドイツ?)が進めている鉄道工事の様子が書かれていました。

そして4枚の手紙のうち2枚は別の手紙で、そっちはさらに分かりにくくて、博物館の職員か誰かに宛てて、輸出したい荷物がいくつあるから手続きをして欲しい、みたいな内容がもっと小さな便箋に書かれていました。

ロレンスの手紙をざっと読んで(見て?)他のページをめくってみると、うわぁ、ウーリーの文字はさらに流れるような筆記体!もう私には読めません!

なので、ウーリーの手紙は諦めて他を見ていくと、中にはセピア色になったカルケミシュの発掘品の写真がたくさんファイルされていました。カルケミシュでの写真担当はロレンスだから、この写真もロレンス(か、助手のダフーム)が撮影して現像したんでは?!うわっ、うわっ、そんなものがまたしても、むき出しの状態で手元にぃ!!無駄に興奮させてくれるよぉ〜。

この中の写真を見て、ロレンス達がかなり大規模な作業をしていたんだと初めて知りました。巨大な動物のレリーフや装飾がいくつも撮影されていて、古代ヒッタイト文明はこんなに芸術的だったんだと知ってちょっと感動。なんだか発掘品が見たくなりました(でもロレンスの興味は中世だったから、ヒッタイトのような古代文明の発掘は退屈だったらしいけどね。)

そして本の中で読みやすい(?)タイプ打ちの手紙を読んでみると、「先日、T.E.ロレンス氏から請求のあった雇用人たちの賃金請求の件ですが・・・」なんて手紙があって、ダフームの給料が安いのよ〜(だって、他の大人の半分くらいしかないんだもん。)他にもロレンスとウーリーが立て替えている経費の精算明細らしきものもあって、「ロレンスの自転車修理費」とか「ダフームのアレッポまでの旅費」なんて書かれていて、「シリアでもチャリに乗ってたんだ」「その旅費、本当に経費なのかぁ?」と、カルケミシュでのロレンスたちの様子を想像してしまって、も〜楽しいなあっ!

ひとりでニヤニヤしている不気味な私にも、その部屋にいた人達は帰る時に「お先にね」と声をかけてくれました。時計をみると3時半。周りの部屋が戸締まりをしているような音がし始めたので、そろそろ帰ろうかと思って本を閉じたら・・・

あれっ??・・・・ひ、表紙がちぎれて外れてる〜っ!!なぜっ!どうして!?
あっ、そういえば、背表紙が弱くなっているから気をつけて見るように言われたんだっけ。でも丁寧に見たつもりだよぉ!わ〜ん、どうしよう〜!でも、こんなのはきっとセロテープで直せば・・・
って、表装自体が思いっきり当時の年代物じゃないかぁ〜!!なんだよ、この「知恵の七柱」並の仰々しい表装はぁ!しかも背表紙には金で「カルケミシュ」って刻印されてるぞぉぉ!
セロテープじゃ無理だよぉ・・・・でも、ちゃんと言わなきゃ・・・グスグスっ。

とりあえず帰り支度をしていたら、担当者が戻ってきて「あ、もう帰るの?」と聞いてきました。「うん・・・それでね・・・その・・・表紙が外れて・・・」とドキドキしながら話しはじめたら、「ああ、これはね〜近いうちに専門家に頼もうと思っているんだけど〜」とか言い出して。なにっ!?もしかして最初から壊れていたの??「そうだよ。ほら、だからこうやって、リボンで縛って箱にいれてあるんだよ」なんじゃ、そりゃ〜!!
「も〜っ!私が壊したかと思ったよぉ!」と言ったら、思いっきり笑ってました。ああ〜疲れた。

出口に案内されながら「このまま帰る?それとも博物館に寄るかい?」と聞かれ、あ、そうだ、「ウーリーやロレンスが発掘したものはどのセクションに行けば見られるのかな?」と聞いてみました。「僕は中の展示についてはよく知らないんだけど、インフォメーションでカルケミシュのものが見たいと言えば教えてくれるよ。おいで!」と、最初のインフォメーション・デスクに再び連れていかれました。

そこで彼は係に「こちらのレディ(え?)がT.E.ロレンスに興味があって、彼のカルケミシュでの発掘品が見たいそうなんだけど、どこにいけばいいのか教えてあげて」と伝えてくれました。

係の男性は電話で「今、インフォメーションに来ているレディ(え??)がT.E.ロレンスに興味があって、カルケミシュでの発掘品が見たいそうなんですが」と聞いてくれました。そして「カルケミシュのものは、現在いくつかが戦争博物館に貸出中だそうです(ウンウン、そうだよ。)それでカルケミシュの発掘品は展示されていないので、今は不在なんですが、この担当者に連絡をとれば見られるそうです」と、名前と電話番号が書かれたメモをくれました。ま、またアポイントメントですか??「カルケミシュのものは一切展示されていないの?」「そうです。でも担当者に電話すれば見れますよ。」

とりあえずお礼だけを言って帰りました。なんだかちょっと悲しいなぁ。カルケミシュでの調査はあまり重要視されていないの?中東の歴史が人気がないのか、はたまた一部で言われるようにロレンスたちの調査が考古学を隠れ蓑にした軍事目的だったからか?それでもロレンスたちは真剣に発掘にあたっていたのに、その成果がまったく人目に触れない状態に置かれているなんて。ちょっとだけ切ない思いを感じながら、博物館を後にしました。はぁ。